Vol.06 (2008年4月)
辰野 勇 さん (株式会社モンベル 代表取締役会長、 登山家・冒険家)
「ヨーロッパアルプスの氷河後退」
私が初めてヨーロッパを旅したのは1969年の夏。アルプスの山々を見渡すキャンプサイトを流れる川の土手をブルドーザーがしきりに掘り返しているのを見た。一旦河川に施したコンクリートの三面張りを剥がして、元の土手に戻す工事だという。すでにそのとき彼らは、河川の三面張りが生態系に及ぼす影響に気付いていたのである。
あれから40年、今もスイスを訪れるたび、美しい山や花咲くアルプスの村が私を迎えてくれる。何一つ変わらない風景、しかし、氷雪に覆われていた岩壁が黒々と岩肌を露出して、雪解け水が滝となって流れ落ちている。緩んだ岩壁で落石が絶え間なくおき、登山者の遭難が相次いでいるという。以前、村はずれまで押し寄せていた懸垂氷河が、なんと標高にして300メートルあまりも後退した。かつては、雨が降っても、高山では雪となり氷河に降り積もっていた。近年、雪は降らず雨となる。もともと草木を寄せ付けない岩山には保水力もなく、雨が雪を解かして氷河を消してゆく。
一昨年、とうとう氷河の上に塩ビシートを被せて、氷河の侵食を食い止める試みが始まったという。「地球温暖化」がこれほどまでに進んでいたという事実に、私は言葉を失ってしまった。地球環境の保全は、もはや一国の力では及ばない事を思い知らされた。
■株式会社モンベル
http://www.montbell.jp/
1975年設立以来”Function is Beauty”をもの作りのコンセプトに、商品開発をされています。モンベルの歴史は、近年のアウトドア用品の進化の歴史でもあります。また、自然保護活動をはじめとして、多くの人たちと自然の中で関わり、活動されています。
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